- 石川県七尾市の情報
- 人口:53,841人(2017年10月1日現在)
- 総面積:318.32平方km
石川県の能登半島で、七尾市の恵寿総合病院を中心に、老人福祉施設など計27の施設を運営する「けいじゅヘルスケアシステム」。もともとは昭和9年開設の地域の病院でしたが、80年以上にわたり地域のニーズに合わせ、社会医療法人財団と社会福祉法人からなる現在の複合体へと進化してきた総合グループです。電子カルテの導入、総合コールセンターや病院コンシェルジュの設置、医療と介護の境目のない接続など、全国に先駆けた取り組みを数多く行い、2016年には“地域包括ヘルスケアサービス”の優れたモデルとして日本サービス大賞を受賞。2017年には最新のITによる「ユニバーサル外来」※を導入した恵寿総合病院がグッドデザイン賞を受賞するなど、高齢化が進む日本の医療、福祉をリードするグループです。病院や施設で毎日提供する患者さん、利用者さんの食事づくりの効率化にも早くから取り組み、2003年には、施設ごとに行っていた調理を一カ所に集約。「デリカサプライセンター」というセントラルキッチンを開設しました。「しかし、なかなか仕組みは安定せず、味への評価も上がりません。大量調理のノウハウが少なく、効率化もうまく進みませんでした。信頼できる専門性のあるパートナーを求め、給食のノウハウがあると聞いたシダックスさんに相談しました」(神野正博理事長)。こうして2012年より、「けいじゅヘルスケアシステム」全体の食を担うセントラルキッチンと各施設のサテライトキッチンを、シダックスが受託運営することになりました。
シダックスのノウハウが加わることで、「けいじゅヘルスケアシステム」のセントラルキッチンは本来の力を発揮し始めます。主菜、副菜は、提供する6日前に食材がセントラルキッチンに到着し、下処理がスタート。5日前に調理、調味を行い、パックをしてチルド保存。2日前に提供施設ごとにカート詰めをして、1日前に提供施設のサテライトキッチンに到着。そこで再加熱され、ごはん、汁とともにトレイに並べられ、提供されるという流れを確立。ゆとりをもった製造計画により、調理スタッフの負担は大幅に軽減できました。また、患者さま、利用者さまごとに、治療上、提供できないメニューや素材を外したり、嚙む力の弱い方にはソフト食での提供も行ったりと、忙しく煩雑になりがちな食事提供の現場も、指示書どおりにおかずの小鉢を組み合わせて提供すればよいように、ITの導入により簡素化。各施設のサテライトキッチンでの配膳作業も少人数のスタッフで、間違いなく行うことが可能になりました。セントラルキッチンは徐々にキャパシティを高め、現在では15施設に向けて1日約5,000食を提供。年間約150万食をつくる能力を備えました。「新しい挑戦をするとき、信頼できるパートナー企業はとても重要。給食ではシダックスさんとパートナーになれたことは本当によかったと思います」(神野正博理事長)。
「けいじゅヘルスケアシステム」では、セントラルキッチンとサテライトキッチン、合わせて144人のシダックスメンバーが働いています。もともと、病院に調理場があったころから働いていた人もシダックスに移籍していただく形で在籍。ベテラン調理師で、今はセントラルキッチンで加熱調理を担当する三上全子もその一人です。「人の体をつくるので、食事づくりはすごく大事な仕事だと思っています。以前は病院で20年、調理をしていたので、今でも町で出会ったときに、あのおかず、おいしかったよと声をかけてくださる方もいるんですよ」。大きな鍋で1日に何百キロという野菜を茹でたりと、見た目はダイナミックな加熱室ですが、三上たち調理師の繊細な気遣いが実は込められています。衛生管理を徹底するのは当然のこととして、同じ野菜でも季節によって水分の含み具合も違うため、野菜を見ながら茹でる時間や温度を調整することで、安定した調理が実現しているのです。セントラルキッチンでつくられたものを受け取るサテライトキッチンには、若手スタッフも多く働いています。栄養士になって6年目の松下裕美は、毎日、「食札」と呼ぶ一人ひとりのお名前と献立や禁止食が書かれたカードを見て、間違いのないように配膳を管理しています。「患者さまと直接、お話しする機会はないですが、お膳を下げていると、食札の裏に『おいしかった』とか『ありがとう』と書いてくださっていることがあります。嬉しいですね」。離れたところで勤務しながらも、患者さまや利用者さまを想う144人のプロ意識がつながって、「けいじゅ」のおいしい食が生まれています。
「けいじゅヘルスケアシステム」とシダックスが大事に取り組んできたのが、温かいものをお出しすること。ごはんと汁は各施設のサテライトキッチンでつくったできたてをご提供し、セントラルキッチンからチルド保存されて届いたものは、しっかり再加熱してご提供します。なかでも規模の大きな「恵寿総合病院」と、隣接する高齢者複合施設「ローレルハイツ恵寿」では、「熱風再加熱カート」を導入。これはごはんやおかずをレイアウトしたトレイを何人分も載せた運搬用のカートごと再加熱し、しかも温めたくないサラダなどは温まらないようにできる優れもの。提供するときの手間が大幅に削減でき、少ない人数でスムーズに行うことができます。ほかほかと湯気が立つ食事を召し上がっている80代の利用者さまに感想をお聞きすると、「食事の時間がいつも楽しみ。あったかくておいしいです」という声が返ってきました。食べる喜びは生きることに欠かせないもの。温かいものを召し上がって、心まで温まっていただいて、ずっと元気でいていただきたいです。
高齢化が進んでいるとはいえ、七尾市には元気な高齢者の方々がたくさんおられ、長年、漁業を支え合って営んできたコミュニティもあります。七尾湾の島、能登島の鰀目町では、使われなくなった保育所の建物を地域の高齢者の憩いの場として活用し、踊りやおしゃべりをしたり、81歳の立野美栄子さんたちは手づくり市や道の駅で販売するお飾りづくりに元気に励んでおられました。このような地域へと医療や福祉サービスも出て行き、病気の予防やふだんの生活を支える「地域包括ケアシステム」へと進化していこうとしています。「地域のなかへともっと溶け込み、『生きる』をよりよくデザインしていくのが私たちの仕事だと思っています」(神野理事長)。そのとき、食はどうあるべきか。シダックスも給食の面からの新しい提案をしながら将来を構想しています。「他の法人の施設でも食事の提供でお困りのところは多く、けいじゅのセントラルキッチンが法人の枠も超えて給食をお手伝いすることもあるでしょう。在宅での医療、介護を進めるためには、ご自宅まで食事を提供することも必要です。少ない人数で、クオリティの高い食を、安定して提供できる給食システムは、時代が必要としているもの。より広く、けいじゅヘルスケアシステムが地域の方々の健康に貢献していけるように、私たちも想いをもって取り組み続けたいと思っています」(シダックス 運営支援担当 丹野英一)。北陸地方が例年にない大雪に見舞われ、交通が麻痺したときも、計画的に食材の調達や調理を行なっているけいじゅヘルスケアシステムは食事提供の遅れを生じさせることもなく、強さを証明しました。これからもシダックスは食の分野の専門性を活かし、幸せな長寿社会づくりの挑戦に伴走していきます。