- 長野県阿南町の情報
- 人口:4,768人(2017年7月1日現在)
- 総面積:123.07平方km
- 観光入込客数:約300,000人(2016年1月~12月)
長野県南端の山あいにある阿南町。町の総面積の84%を森林が占め、起伏の多い傾斜地に集落が点在している、そんな緑豊かな町。町を南北に貫く国道151号線は「祭り街道」とも名付けられるほど、阿南町には国や県の重要無形文化財に指定されている祭りが多いことでも知られています。大自然のなかで独自の文化を育んできたこの町ですが、平成の初めに7,000人ほどだった人口が、現在は4,700人台へ。町は、町営の施設やサービスを変わらず維持・運営することに困難を感じておられました。そのため、町の暮らしを支えるバス運行を2009年から受託し、日々、バスを走らせていたシダックスグループに、他の施設の運営についても委託を検討されました。そして2016年から、温浴施設「阿南温泉 かじかの湯」を中心とする施設群の運営と、学校給食、町立図書館の業務を私たちが担うことに。「町の守備範囲はとても広く、全てを職員でやるのはもう難しい。町として頭が痛いところを、シダックスさんが担ってくれると知り、相談しました」(勝野一成 町長)。
温浴施設「阿南温泉 かじかの湯」は、平成初期の町起こしでつくられた温泉施設。20数年が経ち、オープン当初は年間20万人訪れたお客様も、今は年間10万人ほどになっていました。とはいえ、美しい渓谷が眺められる大浴場と露天風呂、そして何より、豊富な効能で人気のお湯がある。川遊びが楽しめるキャンプ場や自炊も可能なコテージ「かじか荘」、信州の名物を味わえる食事処「かじか亭」、さらには阿南焼の伝統を受け継ぐ「陶芸館」もあるというこの施設群には、愛知県や静岡県から訪れる人も多く、まだまだ大きな価値がありました。「運営の負担を軽くするために、一部の施設を整理するという案もありましたが、これだけの体験ができる魅力をなくしてはいけないと、私は残すことを主張しました。アイデアでまだまだ盛り上げてみせますと」(シダックス松本営業所 下沢義光)。2016 年4月、従業員の方たちに、そのまま勤務してもらう形で、シダックスグループによる新生「阿南温泉 かじかの湯」がスタート。今までのお客様も大事にしながら、さらなるにぎわいを生み出そうと挑戦が始まりました。
「以前よりもイベントをたくさん企画して、チラシやSNSでこまめに発信するようになりました。子どもたちとハロウィンイベントもやっている温浴施設ってあまりないですよね」。副支配人の小林木肖(こずえ)が言うように、阿南温泉 かじかの湯は季節ごとのお祭りやイベントに注力。春はひな祭りや山菜祭り、夏はアマゴつかみどりや花火大会もある夏祭り、秋は収穫祭やきのこ祭り、名物の五平餅フェスティバルもあります。シダックスのグループ力を活かして取り寄せた新鮮なサンマを安価でふるまう「サンマ祭り」には、サンマが足りなくなるほど、予想以上のお客様が来てくれました。陶芸館での陶芸体験もさらに充実中。珍しい「登り窯」での1200℃に達する火入れ・窯炊き体験をプロデュースしたり、スタッフが町内の「少年自然の家」にも出張指導に行ったりと、自分の手で土からつくりあげる陶芸の喜びを大事に伝え、利用者も増加中です。「この土地にはまだまだおもしろい資源があります。はるか昔、このあたりは海だったので、その頃の化石も掘ることができるんですよ」(下沢)。アイデアが続々と生まれています。
町立図書館の運営は2015年から、学校給食は2016年からシダックスが受託運営することになりました。学校給食は2カ所の調理場で、4つの小学校と2つの中学校の給食をつくっています。それぞれの施設でリーダーを務めるのは、この道11年、20年というベテラン。「私の経験上、チームワークがよくないとおいしい給食はできないです。助け合ってこそおいしくなるんです」(調理師 金田洋子)。「子どもたちに、あなたのお父さんが子どもの頃の給食も私がつくってたんだよと言っています」(調理師 小嶋まゆみ)。夏の調理場は暑くて大変。でも、子どもたちが残さずに食べてくれると、明日も頑張ろうという気持ちになるそうです。町立図書館は、5名で運営しています。館長の藤澤幸佳は阿南町生まれの64歳。メーカーを定年退職した後、第二の仕事人生をと、ここで図書館長となりました。「小さい子たちが本を見ながらママと遊んでいる姿は本当にほほえましいです」。図書館まで出て来られない方のためには、移動図書館カーで33カ所を訪問。楽しみにしている本好きのお年寄りも多いそうです。地元文化の映像アーカイブをつくろうと神社のドローン撮影を行うなど、新しいチャレンジも始め、利用する人も増えています。
そして、シダックスがいちばん長く担っている阿南町の仕事が、バスの運行です。現在は阿南町を含む5市町村を走る「南部公共バス」と、阿南町内を走る「町民バス」、小中学校の「スクールバス」の運行を担っています。町民バスは10人乗りのワゴンで、クルマ一台分ほどの道幅の道もぐんぐん進みます。山間部の和合地区を和知野川沿いに走る路線では、いちばん最上流から高校生の松下彩さんが乗ります。停留所まではお父さんが軽トラックで送ってくれて、バスへとバトンタッチ。毎朝、高校のある町へと渓谷の道を走ります。バスのなかでは学校での話にもなります。松下さんは伝統芸能の部活動をしていて、今度、全国大会にも出場するのだとか。「すごいね、おめでとう」。シダックスの運転サービス士たちも彼女の活躍を楽しみにしています。「入院しているお子さんのもとに通うお母さんを毎日のように乗せていた時期もありました。運転士さんたちとのお話が気持ちの支えでしたと、退院してからお礼を伝えてくださったこともありました」(運行管理 林重孝)。阿南町を走るバスは、都会のバスのようにぎっしり満員なわけではありません。でも、とても大事なものを乗せて、未来に向かって走っています。